Prestige開発者のHorizonテーマブロック対応方針から考える、テーマアーキテクチャの選択
Prestige開発者がテーマブロックアーキテクチャへの対応方針をコメント
Shopifyのテーマ「Horizon」がリリースされ、テーマブロックの多重ネスト構造やAIセクション生成など、テーマのアーキテクチャがかなり変わりました。
こうした中、有料テーマ「Prestige」の開発元であるMaestroooの開発者の方が、Redditのr/shopifyスレッドで自社テーマの今後の対応方針についてコメントされていました。(Prestigeは多機能かつ高性能で様々なユースケースに対応しやすいテーマなので、私自身も最もカスタマイズ実績があり数多くのマーチャント様に導入いただいています)
テーマアーキテクチャの今後を考える上で非常に参考になる内容だったので、個人的な見解も交えながらご紹介したいと思います。
開発者の方のコメントの要点
コメントの内容をざっくりまとめると、以下の3点です。
- 現時点では、Horizonのようなテーマブロックアーキテクチャへのアップグレードは行わない方針。ShopifyはDawnをアップグレードせず新テーマ(Horizon)を作ったが、有料テーマ側は既存マーチャントのデータ互換性を維持する必要がある。全セクションをテーマブロックに移行すると既存ストアに影響が出るリスクがあり、Shopifyがマイグレーションツールなどを整備するまでは慎重に対応するとのこと。
- テーマの方向性としては、柔軟性の拡大よりもシンプルさを重視。Horizonの柔軟性は大きな進歩だが、マーチャントがデザインを整えるための労力も増える。Prestigeとしては、視覚的な一貫性と優れたデザインを手軽に実現できることに価値を置き、その方針を継続する。
- AI生成機能についても慎重な姿勢。現時点では生成されるコードの品質に課題があり、テーマ全体との統一感を保つのが難しい。具体的なユースケースがまだ明確ではない中で、不足している機能があればテーマ側でしっかりしたセクションを提供する方がよいという考え。
Horizonの自由度がもたらすメリットと課題
開発者の方の考え方は一つの合理的なアプローチとしてとてもよく理解できます。テーマ開発者の判断として十分に納得できるものだと思います。
Horizonが導入したテーマブロックの多重ネスト構造は、レイアウトの表現力という点では確かに大きな進歩です。セクションの中にブロックを入れ子にして、さらにその中にブロックを配置できる。理論上はかなり自由にレイアウトが組めます。
ただ、この自由度はそのままマーチャントに高度なレイアウト調整スキルを要求することにもなると感じています。
FlexboxやGridの概念に不慣れな場合、ブロックを並べ替えても意図通りにレイアウトできない、という状況は普通に起こり得ます。テーマカスタマイザーのUIがいくら綺麗でも、レイアウトの手法を把握していないと使いこなせないことも多いかと思います。
レイアウトの自由度と売上の関係
表現力が上がること自体は良いことだと思います。ただ、そもそもストアの「構造」ってそんなに頻繁にいじるものではないですよね。トップページのメイン画像や商品一覧、特集コレクション、FAQ——こういった基本構成は一度決めたらほぼ固定です。その「めったに触らない構造」に対して高度なアレンジ機能が用意されていたとして、それが売上アップに貢献するかというと、それはまた別の話かなと思います。
実際のところ、マーチャント様の時間とリソースは限られています。レイアウトをあれこれいじるよりも、商品写真の質を上げたり、商品説明文を改善したり、カート導線を見直したりする方が、よほど売上には直結するはずです。
ですので、テーマ側で一貫性のあるデザインが担保されていれば、マーチャント様が自由なレイアウト作成に時間を費やすよりも、商品そのものの魅力をアップするための本質的な作業に集中できるとも言えます。
「設定項目でカスタマイズする」という従来のやり方
開発者の方が示している方向性は、あらかじめ設計された一貫性のあるセクションを提供して、その「設定項目」を通じてカスタマイズしてもらう、というものです。
Horizonの「何でも自由に組み替えられる」とは対照的ですが、実際のところ実用面ではこちらの方が理にかなっているケースも多いです。(個人的にも従来のテーマの方が、実はセクション単位で処理が閉じているので画面デザインに即してカスタマイズしやすいと感じています。Horizonの場合、コードカスタマイズせずにデザインを意図通りに仕上げるためのブロックパズルを組み立てる作業が必要になりますので。)
Horizon型とPrestige型の比較
| 観点 | 自由構造(Horizon型) | 従来構造(Prestige型) |
|---|---|---|
| デザインの一貫性 | マーチャントのスキル次第 | テーマ側で担保 |
| 操作の難易度 | 高い(レイアウト概念の理解が必要) | 低い(設定項目を選ぶだけ) |
| 表現の幅 | 理論上は無限 | セクションの設計範囲内 |
| 破綻リスク | 高い(意図しないレイアウト崩れ) | 低い(テスト済みの組み合わせ) |
| 導入までの時間 | 長い(試行錯誤が必要) | 短い(プリセットを調整) |
表現の幅ではHorizon型に分がありますが、セクションの設定項目だけでもブランドの個性は十分に出せます。色、フォント、レイアウトのバリエーション、表示/非表示の切り替え、コンテンツの入れ替え——これだけでも組み合わせは相当な数になります。
セクションファイル完結型のアプローチも有効
実は弊社でも、様々なテーマに適用可能な独自のセクションファイルをマーチャントの皆さんに提供しています。このセクションファイルは、セクション単体で全ての設定が完結できるように設計しており、テーマ側の構造に依存しない形になっています。そのおかげで、設定はシンプルに保ちながらも、ストアのグロースに必要な機能はしっかり提供できています。Horizonほどの自由度はありませんが、売上を伸ばすために本当に必要な機能——という観点で見れば、セクションファイル完結型のアプローチでも十分に成果を出せるというのが、実際に運用してきた中での実感です。
AIブロック生成の現状
もう一つ触れておきたいのが、AIによるセクション生成についてです。開発者の方が指摘しているように、現時点では生成されるコードの品質に課題があり、テーマの他のセクションとの見た目の統一が保てないという問題があります。
ECサイトにおいてデザインの一貫性は信頼感に直結します。トップページの中で一つだけ明らかに浮いたセクションがあると、訪問者としてはちょっと不安になりますよね。そのあたりを考えると、開発者の方が言うように「足りない機能はAIに生成させるのではなく、テーマの一部として自分たちでちゃんと作りたい」というスタンスもまた、マーチャント様についてしっかりと考えた上での判断だと思います。
補足
AI生成機能は今後急速に改善される可能性があります。ここで書いているのはあくまで2026年初頭時点での話です。将来的には、テーマのデザインシステムを理解した上でセクションを生成できるようになっていくと思われます。
なお、同スレッド内で開発者の方は後のコメントで、マーチャントからのAI機能への要望が強いため、既存テーマにも「Magic section」のような形でAI生成ボタンにアクセスできるセクションを追加する予定だとのことですが、本人としてはユーザー体験にはまだ満足していないようで、あくまで「求める方には提供する」という温度感のようです。(ちなみに現時点で、どのテーマでもAI生成ブロックはセクションレベルでは追加できるようにはなっています)
ストアの目的に合ったテーマ選びを
Horizonのアーキテクチャが優れている点があることは間違いないですし、それが最適な選択肢になるストアはもちろんあります。
大事なのは、マーチャント様の状況に応じてしっかりと判断することだと思います。Horizon型の自由度が本当に必要なのか。それとも、Prestige型の従来型で十分に目的を達成できるのか。テーマを選ぶ前に、しっかりと検討すべきポイントになります。
テーマは目的ではなく手段です。マーチャント様がやりたいことは、よりよい購買体験を作りだし多くの商品を販売する機会を増やすことであって、テーマのカスタマイズに時間を使うことではありません。目的をしっかりと捉えた上で、不必要なリソースを費やすことなく、ストアの売上を伸ばすことに集中できる環境を作り上げていく——そのために、どちらのスタイルのテーマが自分たちに合っているのかを見極めることが大切ではないでしょうか。